大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 昭和58年(家ロ保)32号 審判 1983年9月20日

申立人 尾崎光一 外一名

相手方 尾崎フジエ 外三名

主文

本件申立を却下する。

理由

1  申立人代理人は被相続人尾崎敏一の遺産分割審判手続の終了するまで被相続人名義の物件に対し、譲渡及び質権、抵当権、賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない旨の審判前の仮処分を求め、申立の実情として次のとおり申述した。

被相続人尾崎敏一は昭和五八年一月二五日死亡し、申立人両名と相手方四名が相続したことにより被相続人の遺産分割審判事件が当庁に係属中であるところ、相手方は○○○税務署に相続税の延納申請とともに同事件遺産目録中の不動産について法定相続分に従つた登記をなしたうえ担保提供しようとしている。しかしながら前記遺産目録に掲げられた物件は被相続人の生前に申立人尾崎光一が贈与を受けたものであるから遺産ではなく、上記のような事態になれば申立人尾崎光一の財産権を侵害されるだけでなく立木の売却等もまゝならず生活に困窮する恐れがあるので申立の趣旨記載の審判前の仮処分を求める。

2  思うに実体的権利義務関係の存否を確定するのは訟訴手続であり、家事審判はこれら実体的権利関係の存することを前提としてその具体的内容を形成する手続である。これを本案である遺産分割事件についていえば遺産共有であることを前提として具体的相続分に即した分割を形成するものであり、そこで審判前の仮の処分が認められるためには終局審判において特定の物件を取得する蓋然性が肯認されなければならない。

しかるに申立人は遺産目録記載の物件について遺産性を否認し、生前贈与に基づく所有権を主張するものであるから、その存否確定は当裁判所の審判事項ではなく、従つて審判前の仮の処分を認める余地なきものといわなければならない。そこで申立を不適法として主文のとおり審判することとする。

(家事審判官 篠原行雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例